読書

 四方田犬彦氏の『人間を守る読書』(文春新書、2007年)を読み始めた。
 オビの言葉に、魅かれた。「いまの日本は他人に対して非常に不寛容な社会になってきているように思います。こういうときだからこそ書物を読まなければいけない。凡庸にして古臭いように聞こえますが、書物に書かれた他人の声に耳を傾けるという行為こそが、いま必要とされているのではないでしょうか」
 紹介されている本は、どれもこれもひとくせもふたくせもあるものばかりで、さすが四方田氏の選である。
 また、本文中には、仕事や研究の調べ物をするために本を読むのは、読書ではない、と書かれていた。ぐさっ。耳が痛い。そう言われれば、私は最近、四方田氏のいうところの読書をしていない。
 今夏、ドストエフスキーカラマーゾフの兄弟』の新訳(光文社古典新訳文庫)が話題となったが、私はまだ読んでいない。夫は読破した。電車の中でも、読んでいる人を何人も見た。
 あすなろ書房の「トルストイの散歩道シリーズ」全5巻は読んだ。北御門二郎氏の訳。読みやすい。『イワンの馬鹿』が、こんなにいい話だと初めて知った。世界の名作と言われるだけのことはある。それで、同氏訳の『戦争と平和』にも挑戦しかけたが、これは挫折してしまった。
 読んでいない本がまだまだある。人生、箱根駅伝に例えればもう復路に入ってしまっている。箱根の山道を下り、次の角を曲がれば、小田原の海が見えて来るだろうか。あるいは、次の次の角だろうか。