旅の報告(5)ロンボク編

0822-04

 午後6時、タバコ畑から村をさらに進む。村役場やエルニ宅周辺には相対的に大きく近代的な家屋もあったが、また、古い伝統家屋が建ち並ぶ地区に来た。
 ところが、様子が少し変だ。村の中を自動車で行ったり来たりする。そのたびに闖入者の車を村人たちはじっと見つめ、子供たちはぞろぞろついて来る。
 ようやくこの家で泊まる、というところに案内されて、正直なところ、かなり驚いた。実は、民泊といっても村の中では有力者の家など相対的にきれいで整った家に泊めてもらえるのではないか、と甘い期待を抱いていたのだ。ところが、当該の家は、古い伝統家屋で、どう見ても平均以上には見えない。リドの話では、当初予定していた家にお弔いがあったため急遽変更になったということだった。ワイフのほうも、トイレなどが不安になったようで、その不安がこちらにも伝染してくる。エルニがつきそって親切に面倒をみてくれたため、ワイフは落ち着きを取り戻すことができた。エルニやエニやホストファミリーが準備してくれた夕食を美味しくいただく。鶏肉や卵が豊富に使われ、この村での食事としては大変なご馳走であったと思われる。日没後であったため、ようやく皆で一緒に食事することができ、楽しかった。

 夕食の間、ムスが日本語に積極的な関心を示す。ひらがなを全部教えてほしい、と言うので、ワイフが五十音図をローマ字で付記して教えたところ、「よこはま」など、知っている言葉を表から拾って熱心に書く練習をしていた。ほめそやしたところ、自信をつけ、辞書を見せてほしいというので見せると、漢字の多さに絶叫して頭を抱えていた。

 8時、ベッドに案内してもらう。おそらく、ホスト夫妻のベッドを明け渡してくれたのだろう。十分広く、ほどほどに清潔感もあった。ただ、家には電気がなく部屋はもう真っ暗だったので、荷物を開けることはできず、着替えもできなかったが、貴重品を抱えてとにかく眠ろう、と覚悟を決めた。長い一日で、十分疲れていた。

 ところが、そう覚悟を決めた矢先、外からコーランの大音声の朗読が聞こえてきた。近くのモスクから拡声器で流れてくるようだ。このコーランが、何時間続いても終わらない。朗読者は、数名が交代して延々続いた。村人の唱和も不協和音を奏でていた。
真夜中、ようやくコーランの声がやんで眠れたのも束の間、3時過ぎくらいには鶏の暁の声。そして明け方にはまたコーラン再開。ラマダンの期間は毎晩このような状態が続く、とのこと。ラマダン中の訪問は先方にとっても負担だったと思うが、こちらもつらかった。