参考文献について(最終回)

4 リポート・論文の書き方


 リポートや論文を書く際には、調べたこと(他人の考え)と自分の考えを区別して述べること、とよく言われます。しかし、たいていの人にとって、自分の仕事や専門と異なる分野については、調べるだけで精一杯で、自分の考えなどとてもわからない、というケースがむしろ一般的でしょう。あるいは、自分の考えのような気になっていることも、実は参考文献に洗脳されて鵜呑みにしているだけ、ということも少なくありません。
 しかし、これまで述べたように、複数の参考文献を相対的に批判的(critical)に読む訓練を積んでゆくと、おのずから、自分の考えが形成されてくるものです。
 再び「ら抜き言葉」を例に挙げると、言葉の乱れを嘆く一派と、言葉の変化とする一派があることに気づくでしょう。どちらか一方だけを読むのではなく、両方の立場を公平に読むことが重要です。そして、感情的な好き嫌いではなく、どちらの主張が論理的根拠に裏付けられていると考えられるか、判断してください。それを、判断の理由とともに述べればいいのです。例えば、次のように書いてみることができるでしょう。


ら抜き言葉」についての文献は多いが、主張は、大きく次の2つに分けられる。
(A)言葉の乱れの1つとして否定する立場
(B)言葉の長期的変化の1つとして、乱れではないとする立場
 著者A(発行年)『書名A』と著者B(発行年)『書名B』を、それぞれの立場から選んで検討した結果、私は、◆の立場に賛成する。理由は、◆は根拠として……を挙げており、ひじょうに論理的説得力があると考えられるためである、一方、◇は根拠として……を挙げているが、これには******という矛盾があり、非論理的と判断せざるを得なかった。


 なお、ここに挙げた「ら抜き言葉」についての記述は、現代語文法の課題の正解というわけではありませんので、注意してください。
 この小文が少しでも皆さんのお役に立つなら幸いです。ご意見をお待ちしています。